研究インタビュー

研究メンバーに聞く:「新たな防災」の可能性①

飯島一博 教授 工学研究科 地球総合工学専攻

研究内容・専門分野:フロンティア(航空・船舶),船舶海洋工学
キーワード:浮体式洋上風車、船体構造、大型浮体、流体構造連成

 


 

「洋上の超大型浮体の可能性を、防災の観点から捉える」

●古い分野(船舶)×新しい分野(風車)
私の専門は船舶海洋工学で、最近取り組んでいるのが「浮体式洋上風車」。つまり海に浮かぶ発電所です。
脱炭素への動きを背景に、再生可能エネルギーとして風力発電の増強が急がれますが、国土の狭い日本で追及するならば、海の上が最も有力な設置場所になるわけです。2024年4月に政府が決定した「新たな海洋基本計画」では、洋上風力の発電目標を2040年までに30~45ギガワットに増やすとしています。これはすごい数字で、全長300m規模の大きい洋上風力発電が5,000基いるという想定になります。
私の研究室では、そうした洋上の風車をどうやって造っていくか、その安全性に問題がないかなどをあらゆる角度から研究しています。
例えば、大型洋上風車をたくさん浮かべるには、日本の領海内だけでなく、EEZ(排他的経済水域)まで広げる必要も出てくる。国土から数百キロ離れた洋上に100~200基を浮かべて電力を供給するとなれば、都度日本の港に動かして点検補修することは難しい。すると、風車の近くに大型のメンテナンス基地(スタッフ100人程度が常駐)を浮かべることもイメージしています。
昔から大阪に多くあった造船所の技術は、大阪大学の前身の1つ、大阪工業大学に集積されてきました。船舶の安全性に関する技術は大阪大学がリードしてきたもので、工学部でも最も古くからある研究分野です。そこに風車による洋上風力発電という新しい分野を加えて、超大型浮体の構造設計とリスク評価の研究が存在しています。

 

●大型浮体技術の安全性を防災上の安心に
洋上風力の設備ははるか沖合に置かれますので、津波をいち早く検知するセンサー、観測装置として活用することが考えられます。
また、実は、既に“浮体式防災基地”というものがあり、大阪湾にも全長800m規模のものが設置されています。浮体のような船舶は地震に強く、津波の影響も受けにくい。有事の際には、被災地に曳航して、住民の避難生活や復旧活動を支援でき、大量の物資をストックできる可動式の防災基地というわけです。さらに考えを進めると、平時は陸に設置された大型シェルターが、大規模災害時には海上に退避できる“箱舟”として機能するしくみも想像できます。
これまで追求してきた大型船舶や浮体式洋上風車の機能と安全性の研究を、地域の多様な人々の安心につながる新たな選択肢に活かす。そういう可能性やアイディアも見いだせるのではないか。それは「新たな防災」に参画する価値ではないでしょうか。

 

●新たな課題へのアプローチ機会として
安心の観点では、浮体式洋上風力という新しい技術が環境に与える負荷を考える側面もあります。超大型風車が回転する騒音や渡り鳥への影響、バードストライクなどの懸念もあるでしょう。海上の騒音のみでなく、海中では遠くまで音が届く特性がありますから、クジラやイルカなど海の生態系に与える影響があるかもしれない。生物系の専門家と連携してアプローチすることが考えられます。
新しい技術分野なので、環境影響の研究は始まったばかりです。課題も存在しますが、再生可能エネルギーとしてメリットも多いわけですので、こうした新しい検討課題を追求しながら、多くの人々に安全で安心なものとして受け入れられるようにしていきたい。そうした“社会受容性”を大事にするためにも、「新たな防災」を通して、様々な分野の専門家と連携していきたいです。学際的な研究プロジェクトならではの、多様な分野の専門家と連携する機会としても活かせると良いと思いますね。

 

取材日:2023年3月6日

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