2022年12月22日、大阪大学のセンテラスサロンでの対面開催とWEB講演を併用したハイブリッド開催の形式で、フォーラムが行われました。6名の方々からのご発表と2名の教員から話題提供があり、その後、グラフィックレコーディングを用いながらディスカッションが行われました。幅広い事例と活動から「新たな防災」の可能性が示されましたが、その内容を一部ご紹介します。
① 堂目 卓生 氏 「真の共助社会を求めて」
(大阪大学 経済学研究科教授/SSI長/先導的学際研究機構「新たな防災」を軸とした命を大切にする未来社会研究部門部門長)
命を大切にする社会を目指す大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)の理念と活動についてご紹介されました。また、共助社会のあり方について、「有能な人(capable)」が「弱者(vulnerable)」を助けるのではなく、「助ける人(capable)」と「助けを必要とする人(vulnerable)」には共助関係があるということ、これからは「助けを必要とするいのち(vulnerable)」を中心として「助けるいのち(capable)」との関係において自由な起業、自由な交換、自由な消費、自由な投資が行われるべきだという提議がありました。
②木多 道宏 氏「場所・コミュニティ・地域の『いのち』を継承する『まちづくり』」
(工学研究科 地球総合工学専攻教授/SSI副長/「新たな防災」を軸とした命を大切にする未来社会研究部門副部門長)
地球総合工学分野が連携する「新たな防災」を軸とした命を大切にする未来社会研究部門の設立と大阪ベイエリアでの共創フィールド構築の実践について述べられました。「新たな防災」を考えるとき、人の「いのち」とは何か、「自己」とは何かから考える必要があるということを、漫画Bleachや哲学者のキルケゴール、心理学者のエリクソンの言葉を用いてアイデンティティを捉えるお話でした。また、コミュニティの「いのち」を「大きな身体」と喩え、「大きな身体」を更新することで事前復興を整えた関東大震災の事例を解説されています。
③ 豊口 佳之 氏「災害が激甚化し、老朽化が進行する中での防災」
(国土交通省河川環境課長)
流域治水の施策、施設保全における事前防災の強化といった政策の方向性、また、河川事業におけるカーボンニュートラル、円山川の自然再生計画の取組が行われているということです。さらに、賃上げや週休2日制の導入を例とした建設業界の魅力向上や施工時期の平準化による体制強化、インフラDXを活用した生産性向上などの努力を重ねながら、維持管理の充実を図っていくことの必要性について述べられました。
④ 城下 隆広 氏「関西広域連合における広域防災の取組み」
(関西広域連合広域防災局次長兼防災計画参事)
地方分権を実現すべく設立された関西広域連合の活動について説明いただきました。中でも広域防災局が取り組んでいる関西防災・減災プランとして、大規模広域災害時の物的支援や職員派遣、避難者の受け入れといった災害時の応援・受援体制などを、東日本大震災、熊本地震、大阪北部地震、等々の事例から紹介されました。平常時から民間事業者とも協定を締結して災害対応の体制を確保しておられるということです。また、関西に拠点を置く防災庁創設を提案するなどの啓発活動も行なわれています。
⑤山口 照美 氏「共助の機能する『居場所と持ち場のあるまち』へ」
(大阪市港区長/生野区政アドバイザー)
前生野区長、現在は港区長としての取組みをご紹介いただきました。防災については、生野区は上町断層による震災リスク、木造住宅密集による火災、外国籍住民が多いこと、港区は南海トラフ大地震による津波リスク、マンション防災や大阪万博時の防災といった課題を抱えているということです。「大阪市地域福祉基本計画」を実施すべく、生野区時代は、一人も取りこぼさないために「居場所」と「持ち場」のあるまちづくりを理想とし、港区では、個別避難計画、津波避難ビルの拡充、防災訓練に若者や女性・地元企業の参画を推進しておられるということでした。
⑥筋原 章博 氏「衰退させない『異和共生』のまちづくり」
(大阪市生野区長/港区政アドバイザー)
区長を歴任された大正区や港区での産業イノベーションについてお話しいただきました。大正区では大正・港エリア空き家活用協議会が発足し、Taishoリバービレッジで社会実験事業を行い、TUGBOAT TAISHOが開業するなど、水辺エリアの活性化による公共空間のリノベーションに取り組まれてきました。事例を通して、安全安心の土台の上に地域経済や地域福祉が乗っているという構造、壁があっても違ったままでもそのまま受け入れるという「異和共生」のまちづくりを唱えておられます。
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その後、大阪大学工学研究科地球総合工学専攻より青木伸一教授から「石油コンビナート等におけるNATECHによる2次災害を拡大させないために」というタイトルで、大阪湾沿岸地域での大規模な液状化に伴う堤防沈下や破壊によって大阪市域の1/3が浸水し、石油コンビナート等から危険物や化学物質の漏出・流出、油起因の津波火災などの2次災害があり得るが、そういったリスクを想定した周辺住民とのリスクコミュニケーションが不十分であり、産業防災と地域防災を連携することが必要であるとの話題提供いただきました。
さらに、牧敦生教授と梅田直哉教授からは「津波時の緊急避難についての問題提言」のタイトルで、3.11では大量の船が被災したことを受けて、津波時に船を離岸・離桟することを想定した場合、離桟に必要な港側の人の補助や介在をなくすための着桟方法、港湾形状を考慮した係留の原則化といった課題が挙げられました。また、危険物運搬船の避難についてもどうするのか、という問題についても問いかけがありました。
それぞれのご発表と話題提供を併せて、パネリストの方々とラウンドテーブル・ディスカッションに進みました。
ディスカッションでは「新たな防災の意義とは」「新たな防災で何をするか」「新たな防災をどのように実施するか」といった点から議論が展開し、深められました。
ぜひ、議論について描かれたグラフィック・レコードをご覧ください。